「古書」「翻訳」短編集《遅れたレポート》。

理想への裏切りは、かくの如く深く永く浸透する。

ラディスラウ・ムニャチコ(Ladislav Mnacko)短編集《遅れたレポート》(1963)

  • 〈墓地にて〉...レジスタンスの戦いの最中、結ばれた男女。戦後、夫が逮捕され、住居が没収され、一家離散。
  • 〈苦しみの庭〉...食料暴動の責任をなすり付けられた、ある工場長。傍聴記事を書いた記者が追いかける。何かがこの社会で起きている。
  • 〈二人の友〉...幼馴染の二人。青年期の道の選択で、別の道を歩くが、或ることで運命が交錯する。
  • 〈カードル伝説〉...旧名家出身の、紆余曲折した経歴を持つエンジニアの青年が、無事就職するまでのお話。
  • 〈レール〉...優秀な工事現場リーダー。上層部の不正を告発したことから転落が始まる。
  • 〈遊覧船〉...ある優秀な技術者への、党の仕打ち。
  • 〈クラーラ〉...外交の仕事についていた党員の女性。サナトリウム時代に知り合った、外国の共産党員との再婚が認められず、数十年が。
  • 〈微笑〉...ダム建設の大詰めで起きた奇妙な出来事。部下が映画の登場人物と名前が同じだったために。*
  • 〈日記〉...ある工場でであった不可解な工場長の言い分。*
  • 〈祝祭〉...ダム完成式典でおきた暴力事件の原因。
  • 〈証人〉...戦争中、パルチザンに身を投じ、戦後は戦争犯罪人の追及をしていた、ある実業家が、突然逮捕され、不当な裁判にかけられる。個人崇拝の時代は終わったのではないのか。
  • 〈夜の会話〉...片手で、精神病だという、元パイロットが、どう生き延びてきたか。

たぶん、ミラン・クンデラの小説などと比べたら、素朴な語りによる、わかりやすい小説だろう。
ソルジェニーツィンのように、ナラティヴが上手すぎる作家といっていいかも知れない。
しかし、例えば、アンジェイ・ワイダ《大理石の男》(1977)。見ていたけれど全然理解していなかった。1980年。@神保町「岩波ホール」。 「スターリニズム」は、「ナチスインディ・ジョーンズ」の様には描けないのだ。
そして、資本主義社会しか知らない自分にさえ、生命の危険までは感じないが、この筋の通らない捻じ曲がった世界がどのようなものなのか、類推できる。〈微笑〉〈日記〉あたりは、身に迫る。