2010/05/26 (Wed) 『琉球新報』社説。【アメリカに問う / 民主主義の王道を 普天間県外移設に舵を切れ】。

    • オバマ米政権の勝利で、鳩山首相にとっては屈辱的な後退」。米有力紙ニューヨーク・タイムズが、米軍普天間飛行場の返還・移設問題で、移設先を名護市辺野古沿岸部に定めた鳩山由紀夫首相をこう皮肉った。米国益を重く見る米メディアの論評の一端であろう。
    • 県内移設を強く拒む沖縄の民意を置き去りにして、日米の二国間合意が最優先されたことは、軍事に組み敷かれた民主主義の敗北と言い換えていい。
    • 政権交代前の自公政権との合意見直しを受け付けず、県外移設を一時は模索した鳩山政権から一方的な譲歩を引き出した米国の「独り勝ち」の様相だ。しかし、長期的視野で見れば、沖縄社会の反基地世論を強め、日米安保体制を不安定化させる根を増殖させたことを忘れてはなるまい。
    • 鳩山首相の迷走と「県外移設」の公約破棄に対する批判が高まっているが、押さえねばならない視点がある。普天間飛行場の返還・移設は日本の国内問題ではない。沖縄に重過ぎる基地負担を背負わせ続ける米国も紛れもない当事者である。解決の責任を負う米政府に沖縄から問いたい。
    • 鳩山首相普天間飛行場の移設先としている名護市辺野古沿岸域は豊かな生態系が息づく。その海を埋め立てて軍事基地を造ることは、米本国ならば可能だろうか。かつて質問した米国務省国防総省の担当者は「無理だ。米国内なら環境問題をクリアできない」ときっぱり答えていた。
    • 普天間飛行場が「世界一危険な基地」と称される理由に「クリアゾーン」がある。米軍機の離着陸の安全確保のために土地利用を禁じた区域に小学校など18の公共施設があり、約4千人が暮らす。
    • 米軍の基準に照らせば、普天間飛行場は即刻運用を停止しなければならない不適格基地となるが、住宅地域上空から攻撃ヘリコプターが急降下するなど、危険な訓練が臆面(おくめん)もなく続いている。
    • 住民への配慮が行き届く米本国や欧州の米軍基地とは対照的だ。
    • 米西海岸にある海兵隊基地キャンプ・ペンドルトンは普天間の103倍の広さがある。周辺の民間地上空を軍用機が飛ぶことは皆無だ。それでも「住民の理解を得ない限り、基地の維持は困難」として、いつ、どの部隊が、どんな訓練をするのかという詳細な情報を公開している。イタリアの基地では、夏場の昼寝の時間帯には一切米軍機が飛ばない。
    • 在日米軍基地の約74%が集中する県内では、日米地位協定の排他的管理権に阻まれ、目の前の基地での訓練内容を知るすべはなく、住民の不安を高める構図がある。
    • 米本国では運用できない基地を沖縄では平然と使い、新たに造らせようとする米国の振る舞いは、県民の命、沖縄の自然環境を軽視する二重基準そのものだ。
  • 《敵意に囲まれた基地へ》
    • 普天間飛行場の県内移設に反対する世論は総じて県民の7割超だ。4月25日の県民大会で示された「県内移設ノー」の民意は世代や主義主張を超えて後戻りできないほど高まり、沖縄社会の“通奏底音”として息づいている。
    • その期待を裏切り、米国の強硬姿勢と実態が乏しい抑止力論に押し切られた鳩山首相が、辺野古移設を明言した今、在沖米軍基地は県民のぎりぎりの寛容的視線をも失い、敵意に囲まれた異物と化すことは避けられない。
    • 米国は「歓迎されない所に基地は置かない」(ラムズフェルド元国防長官)と言ってきた。住民の理解と支持を欠く新基地建設を強いることは、県民の尊厳を踏みにじり、米国がこだわる民主主義への信頼を著しく損なう。
    • 米国内でも沖縄の民意尊重を求める論が出てきた。オバマ米大統領の対日政策のブレーンで、沖縄での研究経験もあるシーラ・スミス氏(米外交問題評議会上級研究員)は、日米両政府は県外移設に舵(かじ)を切るべきだと提唱している。「これ以上日米同盟の負担を沖縄に押し付けてはならない」と指摘。「代替地は日本が単独で選択できるものではない」とし、米国が主体となった見直しを説く。米政府は真摯(しんし)に受け止めるべきだろう。
    • 日米安保の漂流を望まないのであれば、米国は沖縄の民意に耳を研ぎ澄ませ、普天間飛行場の国外・県外を決断すべきである。それが民主主義の王道だ。