「世界のドキュメンタリー2006 上映と講義」#7「亀井文夫 〜 映像と「声」の対位法」(13:00-14:30/14:45-16:05)/是枝裕和 監督の講義(16:16-19:16)。 @京橋「映画美学校」。

ホール


亀井文夫『戦ふ兵隊』(1939/1976) 。


...東宝の制作。完成当時は公開自粛。戦後三十一年目に発見。完全版ではない。/ナレーション無し。字幕と音楽、同時録音の音声のみ。

  • 霊廟に祈拝する中国の農民。焼けはじめる家。往路の難民。ひび割れた畑。
  • 戦車行進。路肩に寝そべって休む兵士。日の丸。「日本軍の根拠地」。砂埃の道。*...運搬車や戦車の上に据えたカメラでの移動撮影。なめらか。
  • 中国人の若者を尋問。ヤスリと鍛冶仕事。蹄鉄。野戦病院。消毒。顕微鏡。水質検査。
  • 給水班。飯炊き。物資の山。見張り兵。体を拭く。美しい映像。
  • 部隊の移動した跡。残された残骸。中国人農民。牛に引かせ耕す。傾いた家。枯れ草縒り。屋根葺き。「憂いが無くなった」。
  • 地図。日本軍侵攻。病馬が倒れ伏す。*...シンボリックなシーン。
  • 見張り兵。マシンガン連射。広大な「廬山」風景。「歴史の一頁を刻み込む」。
  • 中隊本部。池の白鳥。壁に銃撃。銃声とわんわん犬の声。
  • 部屋に次々と兵士が報告にやってくる。棒立ち。しどろもどろのコントの様だ。「すぐ出発せえ」。茶器、煙草、メモを焼く、書類。*...再現ドラマ式で撮影された。
  • 野戦の風景を望遠。怪我人を担架で担いできて、また引き返す。
  • 「大君のために死なめ」。遺骨。遅れて届いた家族の手紙を読み上げる。驢馬の鳴き声で不眠。
  • 朝の点呼。儀礼。ラッパ。号令が裏声。遠くで民間人だか、手ぶらの男がふらふらしているのが見える。...妙な路地で皆固まって。
  • 自動車部隊。戦車部隊の起動。
    • (以降、筆記具不調で記憶に頼る)
  • 漢口、武漢侵攻。ロシア正教会。大河。
  • 無人の街路。見捨てられた家。
  • 軍楽隊の入城。行進。
  • 広場で隊列を組む。座って軍楽隊の音楽を聴く。
  • 広場で休む兵隊たちの服を這う蟻。また、西欧風の街路を、ロバを牽いて歩く兵士たち。服地はボロボロ。靴の裏破れている。
  • 上目遣いの兵士の顔。洋館の屋根。
    • 巷間言われているような、反戦プロパガンダ的、アイロニー的なモンタージュを駆使した映画ではない。感じるのは超然とした視線。広大な風景の中でちょろちょろ動く人間たち。
    • 中隊指令本部の場面は、再現ドラマだった。田舎訛りのオジサンたち。犬は吠えまくり。よくわからない報告と指示。
    • 漢口入城。都会にやってきた博労のおっさんたちに見える。精鋭部隊には見えない。悪いが戦争に勝てそうにない。西欧の文明に圧力を感じているように見える。
    • よくある「大本営発表!!」式でなかったことだけでも、相当問題だったんだろう。

亀井文夫『( 信濃風土記 〜 )小林一茶』(1941)。


...ナレーション、徳川夢声。/この映画の頃には、監督はもう当局から睨まれてしまっていて、受賞関係の妨害があった。


是がまあついの栖か雪五尺。
信濃では月と佛とおらが蕎麦。
下下も下下下下の下国の涼しさよ。
み佛や寝てござっても花と銭。

  • 月。山岳地。棚田。
  • 仏。善光寺。女人往生。老婆たちの髪に百合の花。...飛んでくる賽銭と音楽。昔の実験映画っぽい。
  • 蕎麦。寒冷地。観光地。避暑地。軽井沢の外国人。
  • 春。子供。霜害。縮む桑の葉。養蚕への打撃。...負けるな一茶ここにあり。
  • 小林一茶の人生。雪。雀。
  • 貧しい農民の心。農民詩人としての自画像。
      • 「漂白の詩人を農民詩人に読み換えた」との解説読んだ。文芸批評的には面白いのではないだろうか。

亀井文夫『世界は恐怖する 〜 死の灰の正体』(1957)。


...ナレーション、徳川夢声

  • 熱帯魚の産卵。
  • 致死性の放射性物質コバルト60。実験室。籠の十姉妹の死。
  • ラジオ体操。
  • 立教大学屋上の集塵器。プルトニウム39が検出。
  • オリエンタル写真のフィルム製作所の空気清浄器。フィルターからストロンチウム検出。
  • 1954年のビキニ水爆実験。成層圏に残る死の灰
  • 雨を煮詰める。
  • 土の採取。植物実験。食物連鎖。粉ミルクを分析。
  • ネズミに溶液を飲ませる。カルシウムとストロンチウムは結合し易い。
  • ウサギの肺に水を吸わせる。肺は水も吸収する。
  • 人骨を集めている施設。...子供の骨にも溜まっている。白血病や癌を発生させる。
  • 広島。原爆病院。戦後十二年目。ケロイドが癌に。若い母親の顔面に発病。...窓辺の少女(娘さん)に風が。
  • ショウジョウバエの奇形発生実験。死亡因子が遺伝するしくみ。
  • 金魚の卵に放射線を当てる。奇形化する。
  • 1952年頃。広島での奇形児標本。シャム双生児。無脳。形になっていない。一つ目。
  • 小頭症の床屋の娘さん。四歳で話せない。
  • 東京。宮城前の公園。夜のアベック。皇居前の土にはストロンチウムが多く含まれている。
  • 献血。人間の血の分析。やはり放射性物質はみつかった。
  • 未来はどうなる。
  • 気球でゾンデを飛ばす。帽子とおでこの間に鉛筆を差し込んで止めている教授。高層圏も汚染。
  • 奈良の若草山。鹿の角を調べ続ければデータがとれる。ラッパで呼ばれた鹿が一列に走ってくる。角きり行事。
  • グラフ各種。実験を止めても放射能はこんな具合に減ってゆく。止めなければこうなる。
  • 実験室でネズミが絶命。
  • 水溜りの水面に雨が落ちる。波紋。稲。雨合羽の子供たち。
      • ちなみに『ゴジラ』は1954年。『生きものの記録』1955年。

是枝裕和 監督の臨時講義。


教材は、1993年のテレビ特番のビデオ。羽仁進、大島渚今野勉、NHKの桜井均による鼎談。
...急に人が増える。監督の追っかけか?!? 映画自体見ていなくてもいいらしい。

  • ナレーション、テロップの使用法で、テクニックとして上等なのは、映像を批判、解釈し別の意味を付加するものだ。
  • 戦後の亀井作品からは、映像とナレーション、字幕との間の緊張関係が無くなった。
  • 社会運動のための作品、あるべき社会像、世界観がある、現実を批判する、啓蒙、プロバガンダ。...発見が無くなる。
  • 亀井文夫は、原水爆禁止運動の政治路線による分裂と、期を同じくして、モチベーションを失い、沈黙した。
  • 被写体との関係性。共同作業、共犯関係的。...今では通用しない。参謀本部の再現映像。銃撃のモンタージュ。泣いている子供を押さえつけて撮影させようとして、カメラマンと対立。女性のケロイドの顔を別撮りして挿入。...この面では撮影手法と撮影者の倫理観は一致する。
  • NHKの初のテレビドキュメンタリー番組『日本の素顔』に影響。結論ありきで作られるドキュメント。ヤラセ、捏造を生む原因でもある。
  • 小川紳介土本典昭によって乗り越えられた。
  • 羽仁進。スナップ的。撮られていることを意識しない対象だけを撮影。イデオロギーの無い、動物映画の人。
  • 今野勉。撮影する主体を意識化。撮影対象の変化、リアクションを撮る。プロセス開示。覚醒感の作家。
  • 大島渚。継承されなかった、加害者としての撮影者。加害者としての日本という視点。弱者のメンタリティを持つことの欺瞞性。
  • アッバス・キアロスタミ。悪魔的な「騙し」で表情を撮る。アボルファズル・ジャリリが批判。...ケン・ローチ。シーンによって「騙し」を使う。
    • 角メモ。ソビエト留学(???)から帰朝した直後。エイゼンシュタイン・ルックは当然。今では確かにあの肖像画がぬっとはいってくるようなモンタージュは使われなくなった。/『戦ふ兵隊』は、最初の計画が潰え、現場で改めて考えたプラン。/「徳川夢声」というナレーターを、戦前戦後とおし使っている。/イデオロギーの分裂といって、そんなに具体的にコミットしていたのか。