「古書」「翻訳」《愛の車輪》

tsunoda2007-05-07


ジョイス・キャロル・オーツ 第3短編集《愛の車輪》 (1970)。

  • 001.〈氷の世界〉* ※O・ヘンリー賞受賞作。
    • カナダに近い東部の地方都市。大学の教員になった尼僧。地方のユダヤ系金持階級の、落第を続ける子弟が生徒になり...。
  • 002.〈Where Are You Going, Where Have You Been?〉 ※ボブ・ディランへの献辞。
    • 中西部の田舎。少女たちの時間潰し。農家の姉妹。家人の留守を狙って、変質者たちが訪れる。
  • 003.〈書かれず投函されなかった手紙〉*
    • ボストンとデトロイト。大学教授。政治家の妻の不倫。
  • 004.〈回復期〉
    • アッパーミドル家庭。サバービア。離婚の相談と夫の交通事故が重なる。事故後、ある症状が続く。
  • 005.〈恥〉
    • 黒人街に飲み込まれつつある北部の街。幼馴染みの家庭を尋ねた新米神父。若い未亡人と会って...。
  • 006.〈満たされた欲望〉
    • 大学に職を持つ現代詩の詩人の夫婦。若い女子生徒が夫に近付く。家政婦として同居。その女生徒が妊娠する。妻は...。
  • 007.〈荒れた土曜日〉
    • 大学街の中産階級。離婚家庭の少年。週一回父親に会いに。父親の恋人の女性や友達と一緒に過すうち...。
  • 008.〈私はいかにしてデトロイト矯正院から世の中を考え再出発したか〉
    • 盗癖のある上流家庭の娘が、家に戻って来るまで。犯罪社会での体験。鑑別所の中。
  • 009.〈愛の車輪〉
    • 妻に自殺された大学教授。教え子の家庭に招かれる。回想。妻と最も幸せだった瞬間。
  • 010.〈四つの夏〉*
    • 池のほとりの酒場。そこに何年かおきに立ち寄る、ある少女=女性の経験と思い。
  • 011.〈悪魔たち〉*
    • 老両親と知恵遅れの姉の住む豪邸に戻され、息のつまる生活をしている女性。散歩の時、男を見掛け、一連の出来事が...。
  • 012.〈肉体〉**
    • 大金融業者の娘である新進彫刻家の女性に、ストーカーがつきまといはじめ...。
  • 013.〈少年と少女〉
    • 郊外住宅地に育った男女。一度だけ「ダンパ」の後ドライブにいった。少女は非行を噂される女に、少年はノイローゼに。
  • 014.〈襲撃者〉
    • 自分が透明になったように感じる女が、病床の父を見舞う。その後新しい男と森で抱き合う。父を襲ったのはこの男だ、という。ヌーヴォーロマンか? フロイト的なお話しなのか。
  • 015.〈肉体の重い悲しみ〉
    • 自分にぴったりの恋人と新居でラヴラヴで過す女。突然、父の手術があるとの手紙が来る。捨てたはずの故郷の湖のほとりに行く。父の最後を見取る。すべてに幻滅した感覚に取り付かれ閉じこもり始める。
  • 016.〈物質とエネルギー〉
    • 発狂した母をもった少女は、有名テレビキャスター付きのタイムキーパーになった。男は彼女を誘う。彼女は毎週母を見舞いに行く。母親は娘に怯えているという。
  • 017.〈あなた〉
    • 有名テレビ女優の双子の娘。母親のスターの生活に完全に飲み込まれている。妹が行方不明になった日に...。
  • 018.〈私は恋をした〉
    • 夫と息子のいる家庭と、文系研究者の愛人がいる女。死の予感。息子を送った後、男を訪ねてわがままを言い苦しめる。車で息子を迎えに行くと、突然反抗しはじめ...。
  • 019.〈内的独白〉
    • 化学の研究者の女性。ある男とその妻と付き合っている。妻に子供が生まれ、さらに愛人の子供を妊娠していることを打ち明けられ、キレる。
  • 020.〈男と女のつながりは?〉
    • 断章の積み重ねで描く。夫を交通事故で亡くした妻。知らない男に話しかけられる。死んだ夫につけられる幻覚。明け方に誰かが訪ねてきた。

ジェイムズ・ジョイス的(《ダブリン市民》)、チェーホフ的な短編小説。日本の、山田太一的なホームドラマの内容とも重なる部分がある。中流の上層から上流階層。主に女性。いろいろな階層の少年少女。不毛な生活。突然の衝動。いくつかの題材のバリエーションともいえる。書簡体、報告書の体裁、時間軸の連続をとばしたり、ドキュメント調であったり、夢の描写が入っていたり、スタイルはいろいろ。細部の描写が感覚的、暗示的。
《冷血》《エクソシスト》《ストレート・タイム》などなど、アメリカのいろいろな物語を内包しているといっていいと思う。ま、辛気臭くて全く今風では無いが。
おおざっぱに申し上げるならば、ヒステリー小説というところか。男の考えるエロス的なものがほぼ出てこないのもおもしろい。
この作者には、他に、現実の人物や事件に取材したもの。猟奇的犯罪者を扱ったものなどある。ある種の女流作家の典型、という風に感じた。題材はほぼ網羅しているのではないか。