「古書」森崎和江『闘いとエロス』

表紙


森崎和江『闘いとエロス』(1970)。三一書房

  • まえがき。
  • 一章。眠られぬ納屋。
    • 契子と室井腎。サークル誌の会員を集めるため「新海炭坑」に。契子、女性用トイレが無いので、立ち小便を試みる(幼い頃見た朝鮮の女達の習俗が思い浮かぶ。川でおまるを洗っていた)。炭坑婦人会の女達のあけすけな性の話。「坑夫の男のあれはどぶづけの胡瓜じゃが。じいんとくる男はおらんねえ。」
    • 翌日は「戸峡炭坑」に。皆木ナオ子の家に泊まる。夫婦喧嘩した石田房子がころがりこんでくる。房子はナオ子の夫(隣室で寝ている)にも罵声をあびせる。夫と子供達の様子。ナオ子の愛人らしき青年の話。寝床で、失った子供を思い出し泣くナオ子。
  • 二章。「サークル村」。
    • 創刊号から十冊目までのアンソロジー。論争も収録。室井は停滞を感じている。
  • 三章。みかん色の窓。
    • 流産か何かで病院にいる契子。腎との間の溝を意識しはじめる。腎の嫉妬、争い、睦ごと。
  • 四章。「無名通信」。
    • 森崎和江の「無名宣言」に集った女性同人たちの対談。中に「祝島」の島民の様子を話す女性がいて強い印象。石牟礼道子の文章が取り上げられている。うたごえ『頑張ろう』の歌詞が作詞・作曲者に無断で改変された事件が伝えられる。
  • 五章。飢えた炎。
    • 谷川雁、室井腎、サークル会員ら。若い炭坑夫らとホルモン屋に入り、乱暴な口を利き、親睦を図る(谷川らは逆に共産党の細胞会議を無視し始めている)。
    • 上野英信夫妻と袂を分かつ。事務仕事の停滞。
    • 契子、ホルモン屋の在日朝鮮人のおばちゃんと「故郷/朝鮮」のことを話す(契子は朝鮮から引き上げて来た人間だ)。
    • 室井が炭坑夫たちと話しオルグしている。契子に加わるように目で合図する。
    • 契子は南九州の方言と男たち(日本人)の笑い方が不気味に感じられて入れない。嘔吐してしまう。
  • 六章。「大正行動隊」1。
    • 炭坑の賃金未払が長引き、サークル誌は休刊。運動は分裂し、谷川らのグループは直接行動を目指す。共産党からの除名処分と中傷ビラ。反論ビラ。同調者広がる。デモ組織。近くの炭坑の組合などから独自行動に反発が生じる。争い。行動隊は融資をストップした福岡銀行を標的にする。
  • 七章。凍みる紋章。
    • 少女の強姦殺人事件がおきた。「大正行動隊」の幹部級メンバーの弟が犯人だった。少女の兄も「隊員」だった。
    • 殺された少女の兄が電車に轢かれて死んだ。自殺らしい。皆が衝撃を受ける。室井腎と契子は、壁を隔てて別々に嗚咽する。会議での発言について、階段のところで二言三言。契子逃げ出す。屋台のおでん屋やバーを飲み歩く契子。腎が合流。
    • 契子の性器が痙攣して腎を受け付けない。殺害された少女と男の関係が、全世界に拡散しその正体・原理を現すかに見える。悪夢の様な思念。
  • 八章。葦生える土地。
    • 「新手炭坑」は従業員数を削減。炭坑住宅の過半数を潰してしまう。残った坑夫たちの家庭は崩壊しつつある。新婚の嫁が狐憑きになったり。夫を見限って新しい男をみつける女が現れたり。赤ら顔なのにバーに勤め出す女房がいたり。
    • 隊員たちと会議に出かけた帰り、中間駅前で、室井が杉山という隊を抜けたヤクザ者と喧嘩になり、腕を折る大怪我。室井と隊員は「テロにあった」と興奮。契子はそれとなくたしなめる。
    • 室井。事務所に杉山を呼出して和解。...谷川雁はカンパで「手をつなぐ家」を建てる。
  • 九章。「大正行動隊」2。
    • 大正鉱山。経営陣交替。持久戦に持込む。
    • 炭坑夫ら一斉休業闘争。カンパと女房の臨時雇いと生活保護で生活費を賄いつつ、子連れで、社長宅、頭取宅前で抗議行動を続ける。銀行窓口では小銭を預けたりおろしたりして業務混乱作戦。東京では全学連と共闘し日銀を封鎖した。
    • しかし、労使交渉になると、組合は炭坑夫たちの要求に程遠い条件を飲んでしまう。
    • 身なりをも省みない、炭坑夫や女たちの、会議での憤激。闘争方針も忘れらがちな雰囲気に学生が不満をもらす。
    • 退職闘争に方針転換(操業再開阻止。退職金獲得)。方針支持の投票会で一度通過するも、未集計の票が後から出てきたりの疑惑の開票結果。採決やり直し。
  • 十章。地の渦。
    • 遠賀川の川面の色に妄想を抱く契子。炭坑街の小広場。子供を連れた契子、八百屋と主婦たちと話す。貧弱な品物。下ネタでからかわれる(契子の逢引を当て擦る)。家計費が尽きたので掛売。どうせ隊員たちに食べさせてしまうのだが。
    • パチンコ屋で室井と落合う。室井「手をつなぐ家」でたむろしている隊員(今や同盟員)に生活費のカンパを忘れていないか、と陽気に号令。
    • 中鶴者気質について。社長宅に侵入して家族に謝らせたりのやんちゃな騒ぎを起した。「家」のある大根土の人間と気質が違う。
    • 契子、信房という若い男に恋愛相談を受ける。
    • 強制執行官を目前にして、同盟は、作業場の要所を占拠。交渉を長引かせ、夜になると次の拠点に移動してそこを占拠。機動隊をからかう。
    • ピケを張った炭坑夫たち、猥談をリレーして話を繋げる遊びをしている。六日間の籠城。谷川も室井も、みな花札が上達した。
    • 契子、信房の恋した相手、人妻の育子に合いに行く。彼女の腹違いの弟と夫婦の事情。
    • 強制執行の日。極秘戦術が実行される。25名が炭坑内に入り込んで占拠してしまうという作戦。
    • 同盟本部に女達が集まり、電話で地底の連れ合いと話す。日本中の衆目を集める。
    • 老婆の仮名文字の手紙が届く。昭和6年の坑内座り込みに参加し、騙されて囚われた体験者からの教示の手紙だった。
    • 食料不足で赤犬を潰して食べる。医師の説得で地底抗議団がスト中止して地上に上がってくる。育子の弟は大阪へ行方をくらました。
  • 十一章。大正鉱業退職者同盟。
    • 大正鉱業退職者同盟の要求。会社側は立退きを条件にして金を払わない。
    • 同盟のビラ、労組のビラ夫々の内容。
    • 対決を前に斡旋案。ところが、今度は会社側が引き伸ばしに出る。田中社長の挑発電報事件。
    • 怒った同盟の要求貫徹宣言。労組も沈黙する。
    • 地下坑ピケに至るまでの筑豊の状況。失業して、請負“組夫”に転じた、流民的な下層労働者たちが出現する。地方ボスや暴力団が掌握しているので、接触も出来ない。北九州の工場や土木建築にも流れる。下層労働者にとっては既存労組も敵対する圧力組織になるだけで、状況の変化に追いついてゆけない。
    • 会社は退職金用の資金調達に失敗。退職金は雀の涙情況に。
    • 行動隊の杉原隊長等が逮捕され、法廷闘争に。その最中に選挙があり「杉原市議」が誕生。
    • 同盟は労基法違反で個別に田中社長を告発する闘争を開始。
    • 第四次占拠と下請け業者や市長による三者斡旋で一応の区切り。新住宅協定が成立。
  • 十二章。筑豊企業組合。
    • 同盟は社宅を明け渡し、残留者の住宅建設にとりかかる。この時点で成員は半減。みな関西方面に出て行った模様。
    • 企業組合の仕事が進み、住宅や作業場の並ぶ“自由ヶ丘”が整いだす。
    • 同盟の内部分裂。建設業の技能をもったある血縁集団への反発。「企業組合」の解体。外部の建設業者との競争に晒されかえって占有がすすむ。新しい親分子分、地域ボスの誕生。
    • 行動隊のリーダーたちは、建設の請負業者になるとか、政治家の道を歩みだすとか、お決まりの上昇ルートをたどりだす。そういった者にすがる失業者群。
  • 十三章。雪炎。
    • 室井は契子を行動隊の会議に出席させないと息巻く。契子が分派行動をとっているといい怒り狂う。契子、酒を飲みに外へ。
    • 契子、家で横になっていると室井が戻る。室井、会議で隊員たちからの反応がないと言う。
    • 後日、契子の元には何人かが疑問をぶつけに来る。ある男が最近の「同盟ニュース」を置いていく。内容に不満を感じるという。
    • 室井がまた会議から戻り、空に向ってののしる。入れ替りに契子が「手をつなぐ家」に行き、大学中退生の青年と言葉を交わす。室井が追いついてきて、一緒に家に戻る。
    • 家に戻ると、室井は、契子に隊員の誰とも口をきくなと言う。契子、怒り外に出ようとする。出口を塞ぐ室井を押しのけると、室井は土間に倒れ込んで泣きじゃくる。
    • 室井の混乱と試行錯誤。契子を責める。
    • 契子、ある行動隊員の男の家に眠りに行く。炭坑夫たちが集まって花札を始める。契子は愛らしいと思う。翌日の晩、男に送ってもらう。
    • 室井は隊員と個別対話をするが、不調。
    • 室井は「手をつなぐ家」を封鎖する。契子と言い争い。室井の中の“ブルジョワ的”な部分を責める。室井は唐突に自分の長女を殺したと告白。
    • 雪の日。室井は身の振り方を決める。契子、朝鮮語の勉強を続けている。室井は契子にこれからの事を聞くが、その答えに納得せず、執拗に食い下がる。
    • 契子は雪の中に飛び出す。一度捕まるが逃げる。雪が降り頻る中を遠賀川のほとりまで行き、雪で顔を冷やす。
    • 回想。炭坑夫の男が夜中に乗り込んで来て室井に包丁を突き付けた。
    • 室井の留守にどなりこまれた。「労働者を食い物にして、いよいよとなりゃ、けつわる。」契子叱り飛ばす。
    • 契子、家に戻り、室井と風呂に入る。